技術ブログ/1 計画安全率について
- BORAM Co.,Ltd.
- 2023年7月19日
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更新日:2023年7月24日
安全率、計画(目標)安全率、あるいは余裕率などは、設計照査・合否判定などに用いられる基本的な指標となっています。ここで留意すべき点は、多くの計画安全率は過去の経験や実績に基づいて設定されていることであり、理論的根拠を有する数値として得られているケースは少ないということです。
安全率は、対象物の使用条件(負荷・荷重)の不確実さ、材料の予期しない欠陥(強度)、近似・単純化(モデル化)による挙動の隔たりや社会的影響度・重要性などを考慮して、多くの要因によるバラツキを補う目的で導入されています。ちなみにロケットや航空機の安全率は1.25~1.50程度と言われており、一般的な機械材料の安全率3~4やエレベータロープの安全率10と比較するとかなり小さいことが報告されています。アポロ13号の安全率はわずか1.07だったとのことで、これは設計・製作・メンテナンスの全てにおいて極めて厳格なシステム化・マニュアル化がされて初めて可能になると思われます。そもそも、安全率を大きくとると航空機の重量が大きくなりすぎるというジレンマがあり、安全率と飛行現実性との「二律背反」が最適化設計技術の発展に大きく寄与したのかもしれません。
ところで建設関係の例としては、分割法の一つである修正フェルニウス法により得られる盛土斜面の計画安全率は常時で1.2と規定されています(盛土工指針(日本道路協会))。分割法には既にいくつかの方法が提案されていますが、これは図-1に示すように分割スライス数nに対して(n-1)個あるスライス側面での不静定内力(水平力Eiおよび鉛直力Xi)の評価方法がそれぞれ異なるためです。

図-1 スライス間に作用する不静定内力(Ei、Xi)
ここで、既往の報告1)に基づき、分割法により得られた2次元円弧すべり安全率Fsについて比較してみました。図-2に安定計算モデル、図-3に安全率Fsの計算結果を示します。

図-2 分割法による安定計算モデル1)

図-3 安全率Fsの計算結果
図-3に示すように、比較的シンプルな2次元分割法による安定計算によっても安全率がFs=0.99~1.14の範囲でばらついており、設計上の観点からは計算式の選択は重要な要素となるといえます。一方、分割法の中で簡便法とも呼ばれる修正フェルニウス法は最もポピュラーで多くの実績を有しており、本手法において適用されている計画安全率の目安(例えば前述したFs=1.2)については経験的に妥当性が認められているようです。
このことは、より厳密かつ精度の高い計算手法を採用する場合であっても、定式化の内容が異なる場合においては、その際の計画安全率について既往の数値との整合性について検討することの重要性を示唆しています。また、作用荷重や抵抗力などの評価方法が2次元と異なる3次元斜面・地すべり安定解析や、極限つりあい理論と異なる弾塑性FEMによる斜面安定解析を適用する場合などにおいても、定式化の方法が異なることから、それぞれの計画安全率の設定については検討を要する可能性があります。
【参考文献】
1) 土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 「農地地すべり防止対策」 付録 技術書
5. 安定解析 5.2 解析手法による影響 pp.500~501、令和4年5月