技術ブログ/2 せん断形式による地盤強度の違い
- BORAM Co.,Ltd.
- 2023年10月7日
- 読了時間: 3分
更新日:2024年2月6日
地盤材料のせん断強度は鋼材やコンクリートなどの材料とは異なった、固有で複雑な特性を有していることが知られています。これは地盤材料が多孔質な粒状体により構成されていて、ダイレイタンシーや拘束(圧)・せん断条件、透水性・透気性などが力学的性質に影響を与えていることに起因しています。ここでは、せん断形式による地盤強度の違いについて、主働土圧を算定例にして調べてみました。
壁面に作用する主働土圧PAは、図-1に示すように応力特性線モデル(Stress characteristics model)あるいは速度特性線モデル(Velocity characteristics model)により算定できると考えられます。応力特性線においては従来のクーロン土圧論と同様に平面ひずみ状態での強度定数(φps、cps)が用いられるのに対し、速度特性線においては直接せん断状態での強度定数(φds、cds)が用いられることになります。これは、速度特性線は「土の伸び縮みゼロ」方向でのすべり線であり、単純(一面)せん断試験などでのShear zone(すべり層)と適合しているからです。
すべり線の角度は応力特性線では(45°+φps/2)、速度特性線ではψをダイレイタンシー角として(45°+ψ/2)となり、それぞれ異なることに注意が必要です。ψは図-2に示した座標(x、y)において、tanψ=Δεy/Δγxy=Δy/Δxと定義されていて、せん断面での水平変位増分Δxに対する鉛直変位増分(ダイレイタンシー)Δyの比を意味します。なお、εyはせん断面での鉛直ひずみ、γxyはせん断ひずみであり、せん断面上での水平方向の土の伸び縮み、すなわち水平ひずみ増分Δεxはゼロに拘束されている状態です(Δεx=0)。

(a) 応力特性線 (b) 速度特性線
図-1 主働土圧PAの算定モデル

図-2 単純(一面)せん断試験でのShear zone
図-1で示した作用力を抽出すると図-3のように表示されます。なお、ここでは壁面は滑らかと仮定しています。一般的にはφps>ψであるため、すべり土塊重量Wは速度特性>応力特性となります。

(a) 応力特性 (b) 速度特性
図-3 作用力の概念図
図-3において両者の主働土圧PAが一致するとした場合、多少の計算の後に(1)式が得られます。

(1)式から、単純(一面)せん断試験から得られる強度定数(φds、cds)は、平面ひずみ試験から得られる(φps、cps)よりも小さくなることが認められます。
φps>φds cps>cds
一方、既往の研究では軸対称の三軸圧縮試験から得られる強度定数についても同様に、平面ひずみ試験結果よりも小さくなる傾向にあることが報告されています1)。地盤工学が対象とする問題の多くは平面ひずみ状態であることから、せん断形式の観点からは、本来は平面ひずみ試験を実施することがベストかもしれません。現実には三軸・一軸圧縮試験や直接(一面)せん断試験などが多く用いられていますが、得られる強度定数は平面ひずみ試験よりも安全側となることから、実務上は合理的かつ現実的であると考えられます。
参考文献
1) 望月 秋利・藥 敏・高橋 真一:砂の平面ひずみ試験と結果の整理方法、土木学会論文集 No.475、pp99~p107、1993年9月